【体験談】同居人がマルチ商法被害に遭った話
20歳を超え成人すると、あらゆる契約に保護者サインが必要なくなり自己責任で生きる道が拓けます。
そして長く連絡をとっていない知り合いから「久しぶり!元気?久々にお茶でもしない?」などとメッセージが届いたりします。
”その多くはよくないお誘いの可能性が高い”と先人の知恵を聞かされていても、久々にもらった連絡が嬉しくて、まさかこの人に限って、自分の周りでそんなこと・・・などと疑心に言い訳をしてつい会ってしまうことがあるかもしれません。
そしてつい会ってしまったその1回で、人生が狂ってしまう・・・そんなことが現実に、今日もどこかで起こっています。
時を遡ること約8年。
当時のわたしは一人暮らしのしがないOLで、趣味繋がりで知り合った5つ年上の男性とお付き合いしていました。
わたしは正規職員としてそれなりの給料を得ていましたが、彼は飲食チェーン店のアルバイトをしており、いわゆるフリーターの立場でした。
そんな彼とお付き合いを始めて半年ほど経った頃、厳しい両親に育てられた彼は実家に嫌気がさし、わたしの家に転がり込んできました。
状況からして資金力はわたしの方がありましたが、お金に関することはしっかりしないといけないことを嫌というほど学ぶ機会の多い人生を歩んできたので、きちんと生活費は徴収していました。
もちろん先を見据えた上で就職活動を勧めることもありましたが、濁されてはなかなか話が実ることはありませんでした。
同じ部屋でリズムの違う生活を続けるのは苦労が伴います。わたしは翌朝早いのに、酒に酔った彼が深夜に帰宅することも少なくありませんでした。
前進に見えた後退
ある日もまた、わたしは彼に就職活動やこの先をどう考えているのかと話を振りました。すると彼からいつもと違う反応が返ってきました。
「実は最近、知り合いから仕事の誘いを受けている。今その勉強を進めている」
全くの初耳で驚きましたが、少しずつでも歩み始めてくれていることが、その時のわたしには嬉しかったのです。
それから数日経った頃、わたしは自宅の洗面所に違和感を覚えました。なんだか洗面台が今までになかった色で汚れている。
何を流したのだろうか?洗面台下の収納庫を確認すると、見覚えのない洗口液を発見。彼に問うてみると「知り合いに貰った。結構良くて、使ってみる?」とのこと。
丁重に断り、使用後の汚れは掃除してほしいとだけ伝えてその話は終わりました。
鳴らないはずの音
それから2・3日後のこと。
彼が飽きもせず酒に身を任せ、わたしのベッドを占領して眠りについていたとき。聞き覚えのあるLINEメッセージの通知音がかすかに聞こえました。
かすかに、ということはわたしのスマホから聞こえたものではないらしい。この瞬間嫌な予感が全身に電撃のように走った。
なぜなら彼は、LINEを利用していないはずなのです。
酔って帰った彼はそのままベッドについてしまったようで、スマホはカバンの中。恐る恐るカバンの中の彼のスマホを取り出すと、LINEメッセージの新着通知が表示されていました。
送信元は男性名で、メッセージ内容はアルファベット2~3文字に略された単語と思しきものが頻出する、極めて不可解なもの。
ロックがかかっているため他のやりとりは確認できず、三行程度の怪文を頼りに自分のスマホで検索を進める。震える手で。
どのような単語で検索したのか、記憶がありません。その頃はTwitterもほとんど利用しておらず、ひたすらにGoogle先生に頼るしかありませんでした。今思えばTwitter検索のほうが答えへの近道だったかもしれません。
吐きそうなほどの確信
わたしは見つけました。嫌な予感は的中し、マルチ商法絡みの案件であることが濃厚でした。
”実は最近、知り合いから仕事の誘いを受けている。今その勉強を進めている”
ああ・・・もっと詳しく聞くべきだった。20代後半の収入が安定しない男性。狙われやすいことは明白でした。
躊躇いはありましたが、わたしは彼のカバンの中を更に探りました。すると、数十枚の用紙がホッチキス留めされた”テキスト”がありました。
脈打つ速度が正常ではない。しかし逃げるわけにはいかない。・・・意を決して、血が通わず冷え切った手で”テキスト”の中身を確認しました。
無数の蛍光マーカーが引かれた”彼女説得用”指南書
ゾッとしました。背筋が凍るとはこのことなのだと、身をもって知りました。
テキストにはそのページを含め、他人が一見してもわからぬよう、ほぼ全ての単語にアルファベットの略称がついていました。ご丁寧に印がつけられていたため、先のLINEメッセージの内容はこの時には既に解読可能でした。
伝統的手法
”クロ”であることを確信し、彼を起こしました。彼は観念した顔つきで、目に涙を浮かべながらわたしの質問に答えました。
LINEをいつ始めたのか。
送信元の男性(以降友人Aとする)に勧められて始めた。
友人Aとはどういう関係なのか。
学生時代に何度か遊んだこともあるが、連絡は10年ぶりだった。
・・・どうして誘いに乗ったのか。
これにはただ謝るばかりで、理由は推測するしかなかった。
勧誘方法は至極一般的で常習性のある、捻りのない昔から行われている手法。ファミレス(あるいは喫茶店)囲い込み作戦でした。
座席端に壁のある4人用テーブル席を利用し、始めは友人と1対1の対向席で談笑。盛り上がってきたところで本題に入り、突然現れた”先輩”がターゲットの隣に座り逃げられなくなるという常套手段。
まさかそんなありふれた作戦に引っかかってしまうなんて、わたしは愕然としました。
しかし彼らもそれで食べていく決意をした者たち。努力してターゲットを射止める話術を身に着けているわけです(多分)。
軽い洗脳状態にある彼を説得できるネタをわたしは持ち合わせていないので、それこそ先人の知恵として過去に説得に成功した方がインターネットに残してくれた文章を彼に読ませました。
なるべく現実的でわかりやすく、彼の心情や状況と一致するようなものを探し読ませました。
”ファミレスのドリンクには着色料や添加物が多く身体に毒だと、その毒を口にしながら話す彼らの言葉に信憑性はあると思いますか?”といった内容だったと記憶しています。
いやそんなアホな話あるかいな!と思いましたが、彼には心当たりがあったようで納得する材料になっていました。それでも刷り込まれてしまうくらいに、巧みな話術がそこにはあるのだと思います。多分・・・。
そこにない心
かくして先人の知恵を目の当たりにした彼は「目が覚めた」と言い、この件は断ることをわたしと約束してくれました。
なお、この約束はいとも簡単に破られてしまいます。
1週間も経たぬ頃でしょうか。わたしがひとりで部屋の掃除をしていたとき、押し入れの空きスペースに見知らぬ段ボールがありました。
さすがに中身を見ずとも、わかりました。
でも一応確認してみました。中身は数日前に洗面台を汚した洗口液や、化粧水など。
あ~もうダメだこれは。ショック。どうして。情けない。どうしようもない。詰めが甘かった。感情が溢れかえりました。
帰宅した彼に問いただすと、どうやらあの後また友人Aから説得されて継続を決断した模様。断る前に届いてしまったのかも、という淡い期待は無に帰すのみ。
もう彼に任せるのは信用ならないと思い、その場で友人Aの着信拒否をさせました。
そして翌日、サポートセンターに電話をしてクーリングオフの手続きをしました。
クーリングオフなんて人生で使うことあるのかな?と思っていましたが、学校で習っていてよかったと実感しました。
サポートセンターのお姉さんはとても丁寧で、事の成り行きを説明するとお詫びされ、紹介者の氏名を聞かれました。伝えることで何か改善するのかはわかりませんが、どのみち契約を解除することは通知されるでしょうし、こちらにデメリットはないと思い伝えました。
その後無事に返金(全額ではありませんが)され、それから荷物が届くことはありませんでした。
余談という名のホラー
呆気なく終わったように見えますが、事の前後に恐ろしいことがありました。
友人Aからの連絡はアプリを使って着信拒否をしていましたが、アプリをチェックすると毎日20件以上の着信履歴がありました。拒否していることはわかるだろうに、1週間程続きました。
それがようやく止んだと思った数日後、彼がいない日の深夜2時頃にインターホンが鳴りました。オートロック付きマンションでしたが、そのとき鳴ったのはドアホンでした。
恐ろしくてドアスコープを確認することもできませんでした。
友人Aは、当時同市に住んでいました。もしかしたら家の中にも入れたこともあったのかもしれません。
怖くて怖くて近くの交番にも相談しましたが、実害が出ていないため動けないので記録だけしておくと言われました。そりゃそうだ。当時かなり気が動転していました。
逆恨みは怖い。サポートセンターで氏名を告げたのは誤りだったかもしれません。今回は幸い、その一度のみで済みました。
もうひとつの恐ろしいこと。それは、勝手にわたしの家に彼の住民票を移されていたことです。
同棲(?)を始めて数カ月経っていたので、両者相談の上で移動するのなら何も問題はありません。
怖かったのは、友人Aが彼の代理で役所での手続きをしていたことです。
契約には商品送付先と住民票情報が一致する必要があるらしく、彼は友人Aに説明されるがまま、委任状・本人確認書類・印鑑などを預けてしまったようです。
彼の住民票異動手続きのあと、当然友人Aは最新情報の住民票を発行しているはずです。世帯主氏名にわたしの名前が載ったものを・・・。
その後特に自覚できるほどの何か実害があったわけでもありませんが、気味が悪くて早く引っ越してしまいたくて仕方ありませんでした。
その後のこと
彼とはほどなくして別れ、わたしはその後いろいろあり他県に転居したのでこの話はおしまいです。
早期に気付けたのでクーリングオフなど制度を利用して対処することができましたが、時間が経てば経つほど本人の感情・思考・しがらみや金額など膨れ上がり戻せないところに行き着いてしまうと思います。
今もまだ、手法を変えてこの手の詐欺行為は続いています。疑うことはしんどいです。でも、騙されたあとの対処のほうが精神的にも経済的にもずっと苦痛になってしまいます。この記事が何かのヒントになれば幸いです。
※この記事はマルチ商法の何が悪いかなどは記載していませんが、そのあたりのことはインターネット上にたくさん情報がありますのでピンとこない方は調べてみてください。